2009-04-01

経済学に抽象度の高い数学はホントに必要なんでしょうか?

Acemogluの教科書("Introduction To Modern Economic Growth")が届いてちょっとうきうきしているが,さすがに巨大で全部読むのは到底無理という気がする.

だが,数学的な記述が徹底している分,数学科出身の私にはわかりやすい.数式やグラフなしで文章ばかり続くと論理を追うのに骨が折れるから.

しかし,経済学の本を読んでいてときどき不思議な気がするのは,ちょっと抽象化しすぎの感があることだ.

本書にも巻末に数学のAppendixがあって,Appendix Aでは,位相空間論(general topology)について説明されている.これは数学科においては国語のようなもので,知らねば話にならない.しかし,経済学でこれをやると,かえって理解しづらくなるのではないかと思うのだ.おそらく本文で一般位相は使われておらず(全部読んだわけではないので違うかもしれないが),基本的には距離空間(あるいは,seminormsで位相を定める局所凸空間くらい)で話が済むのだから,そこでやめておいてもいいのではないかと思うのだが気のせいかなぁ.ようするに必要なのは関数解析でしょう?

ちなみに,私の出た大学の理学部数学科では,位相空間論は落ちこぼれの多い科目で,100人以上受けて10人ちょっとしか合格していなかった.これを本気でこなさないと経済学がわからないのだとしたら,その他にも技術的な話(計量経済学など)や歴史的な話(経済史,経済学史など),哲学的な話(なんだか想像もつかない)など山ほどやることがある経済学科はなかなかしんどい学科だろう.

むしろ,級数や積分,確率の扱いの方がデリケートなのではないか...とすれば,むしろ解説すべきは測度論ではないのか,という気もする.まあ,これも程度問題で,ユーザー的に,Lebesgueの収束定理,単調収束定理とFubiniの定理を使うだけの話でよいと思うが.

Appendix Bは常微分方程式の話だが,ここは,Appedix Aと比べてずっと抽象度が低い.微分の定義が書いてあったり,簡単な微分方程式の解き方が説明してあったりする.Appedix AとBの水準は随分違うと思うのだが.

というか,そもそもAppendix Aの知識を総動員しなければならないほどデリケートな議論なのであろうか?角谷の不動点定理を使うくらいで済むのなら,一般位相まではいらないと思う.

経済学と並んで数学をバリバリ使う物理では(本質的に)極めてデリケートな問題を扱っていることが多いが,数学的に厳密な記述は(数理物理を除いて)あまり重視されていない.

例えば,数学を勉強してから量子力学の教科書を読むと,あちこち引っかかる.作用素(物理の人は演算子という)の定義域が書かれていないし,どのような空間に作用しているのかも判然としないことがある.対称作用素と自己共役作用素は区別されていないし,非有界作用素で定まるユニタリ群が行列の指数関数と同じように(べき級数で!)定義されていたりする.

しかし,驚くべきことに,物理学者は,数学を本質的に誤用することはめったにない!のである.

10年くらい前に東大物性研で数理物理の人の講演に対し「数学的に厳密にやる意味がわからない」という野次(?)が飛んでいたのをよく覚えている.私は,専門なので厳密にやることに意義があると思っているが,野次を飛ばす側の感覚もよくわかる.

よく経済学は物理学をモデルに作られたというが,形式的には物理というより(純粋)数学に近い気がするんですが,どうなんでしょうね.

帰りの電車でTeXの誤植らしきものをいくつか見つけたが,だからどうだというわけではない.いずれ内容についても何か書くつもり.

エイプリルフールと何の関係もないエントリですみませんです.

2 コメント:

風竜胆@文理両道 さんのコメント...

経済学は、実験で検証というのが困難なので、現実との合致はさておいて、どんどんモデルが抽象化しているのかもしれませんね。
海外の経済学者は、数学的な素養がある人が多いのでしょうね。それを数学の分からない日本の経済学者が、輸入しているという図でしょうか。

Masahiro Kaminaga(神永正博) さんのコメント...

風竜胆さんいらっしゃいませ。
日本の経済学者も数学が得意な人は結構多いのではないかと思いますが、元々数学や物理をやっていた人がもっと経済学に流入すると面白いような気がします。日本には分野を変える人が少ないので、狙い目かもしれません。