おこがましいかもしれませんが,少なくとも社会に対する弾さんの思考パターンと私の思考パターンはとても似ているらしく,あちこちで「そうそう」と思いながら読みました.特に『決弾』のQ&A(人生相談)では,ほとんど同じ回答をするだろうな,と思うところがたくさんありました.
『「仕組み」進化論』の英題は,"New 20%Rule for survival"となっています.
この「生き残るための真の(新しい)20%ルール」は,本書の核心です.
Googleは,既存の仕組みを回す仕事(普通仕事と呼ばれているものの大部分)と,これからの新しい仕組みを考える仕事の時間比を80:20にすることで知られていますが,弾さんは,これではまったく不十分であって,比率を逆転させ,20:80にするべきだ,と主張します.これが"New 20%Rule for survival"です.
この考え方によれば,効率化は,既存の仕組みを回す仕事に必要な時間を圧縮するために必要なのであって,残った時間を既存の仕組みを回す仕事を増やすことに使ってはいけない,ということになります.生き残るために必要な80%の仕事(=これからの新しい仕組みを考える仕事)に回す時間がなくなれば,生き残ることはできないからです.
弾さんは,基本的には個人に向けて書いていますが,私は,国についても同じことが言えると思います.重要なのは「新しい仕組みを作ること」にあり,既存の仕組みを何が何でも守ることにはないからです.
日本は,現状,仕組みに組み込まれた「部品」の中では優秀な部類だと思います.今でも,既存の製品の改良をやらせたら日本はなかなか上手いでしょう.そのための試行錯誤にかなりの時間を使っているはずです.私は,企業の研究開発部門にいたことがありますが,企業の研究所というところは,新製品の開発をする際に,世界的なトレンドを調べ,その線に沿った研究を行なう傾向にあります.実験的なプロジェクトもありますが,比率は全体から見るとごくわずかです.研究者にとっては,研究開発と同時に,トレンドとなっている技術,キーワードを調べることも重要な仕事です.
しかし,自分たちでもう一段レベル(抽象度)の高い仕組みを作る努力を怠っているため,多くの領域で後れを取っています.最初に仕組みを作ってしまった方が何をやるにしても有利だからです.
これまでの普通の働き方しか見えていない人にとって,仕組み作りという仕事は,遊んでいるように見えるでしょう(「十分に発達した仕事は遊びと区別できない」(p.211)).これからは,このような仕事こそが生き残るために必要な仕事なのだ,ということが徐々に明らかになっていくと思いますが,古くからの労働観が変わるにはまだまだ時間が必要でしょう.
新しい仕組みを作るには膨大な試行錯誤が必要です.試行錯誤というと,つい,製品開発の試行錯誤のようなものを想像してしまいますが,ここで重要なのは,製品そのものではなく,「社会的な仕組み」あるいは,「ビジネスの仕組み」を作るための試行錯誤のことです.そのために80%の時間を使うべきなのです.
新しい仕組みを作るために何が必要か?それは,おそらくしつこいくらい詳細な記録と,活用の努力です.弾さんも「何でも記録しておく合衆国政府」(pp.163-164)で指摘していますが,記録の力は極めて大きく,アメリカがいまだに力を持っているのは何でも記録し続け,それを分析するということを怠らないからのような気がします.日本の政府統計もだいぶ良くなってきましたが,アメリカのCensus Bureauと比べるとまだまだという気がします.私は4月に出す本(『不透明な時代を見抜く「統計思考力」-小泉改革は格差を拡大したのか?』(ディスカヴァー21))で政府統計の使い方について書きました.書きながら思ったのは,日本の問題は,しつこく記録が取られていないことだけでなく,その十分な活用がなされていないということでした.これは努力目標ではなく,生き残るためにやらねばならないことです.
これは,「車輪の再発明をしない」というプログラマー的視点と結びつきます(pp.76-77).同じ議論を繰り返すことで失われる時間と人的リソースが膨大だということももちろん重要なポイントですが,決定的なのは,記録して活用しないと議論が進歩しないということです.仕組みをよりよいものにしていくには,最低限議論を進歩させる必要があるでしょう.
本書の帯にあるように,今,この国に必要なのは「すべての仕事を進化させる方法」です.本書にはそのヒントがちりばめられていると思います.
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