2012-01-18

ビートたけしさんと対談する

ビートたけしさんと対談させていただきました。本日(2012年1月18日)発売『新潮45』の「達人対談」というコーナーです。



会ってみた印象は、「たけしさん、やはりタダモノではない」。

大学には勉強ができる人は大勢いて、この方向ですごい人は何でも理解できるし、何を聞いても的確な答が返ってくるような、官僚的明晰さがある。

たけしさんには、そういう感じもないわけではないけれども、全然違う凄みがある。「全部自分の言葉だ」という凄み。引用なしで、全部自分で考えて言っている。普通は、そういう言葉って偏見だらけで根拠がなくて、ほとんど納得しがたいものなんだけれど、たけしさんの場合は違う。納得させられてしまう。

今回の対談では、編集者の方から「とにかく話が途切れないように」というアドバイスを頂いていたので、私は一生懸命しゃべりまくったのですが、そうすると十分推敲しないで口にするので、話があちこちしてしまうわけです。そんな私の話を、たけしさんは何度も本題に戻そうとして下さいました。ものすごく気を遣う方です。

ちなみに、私は統計の達人という名目で登場してます。リミッターなし、本音全開で喋りました。よろしければ、ぜひ。

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ところで、たけし軍団っていうのは、これからの日本の縮図なんじゃないかと思う。

それは、一種の家族だ。

有り余る才能とパワーを持つリーダーと数名の準リーダーが狩りに出て、大金を稼ぎ出す。周囲はそれを助け、一種の扶養家族として生きていく。

軍団のメンバーの能力はおそらくバラバラなんだと思う。ほとんど仕事ができない人もいればリーダーに迫るメンバーもいる。収入はベキ分布してるんだろうな、と。そうなると下の方はそのままにしておくと仕事がない。稼ぎもない。でも、たけしさんは、彼らにも何らかの仕事を分け与え、飯を食わせ・・・・・・あらゆる面倒を見ているんじゃないか。

人間の能力の差というのはある意味ではとても小さいけれど、その小さな違いが生む成果の差はかなり大きい。重要な仕事に就ける人はごく一部だ。でも、皆それなりに自分の価値を感じていたいし、食べられなくなるのも困る。

これはある意味、理想のシステムなんじゃないか。

日本はいずれそうなる。

リーダーをリスペクトしているという点を除いて。


夜につまづき 作詞・歌 ビートたけし 作曲 泉谷しげる

Google検索(ビートたけし  夜につまずき)

関連エントリ:才能とは何か

私が一番好きな北野映画は、これ↓です。



追記:対談の中に、数字の誤りがあるようです。

p.250 下段8行目 「偏差値36ぐらいになると」→「偏差値46ぐらいになると」

取り急ぎ訂正させていただきます。

2012-01-01

謹賀新年-キッチンタイマー仕事術

昨年からブログ年賀状に移行しています。

今年も宜しくお願いします。

同じような方も多いと思いますが、最近、様々な仕事をするのに、キッチンタイマーを利用するようになりました。
締め切り効果で、作業効率が10倍…とはいきませんが、1.5倍くらいにはなっています。
空いている時間の長さにもよりますが、私の場合、

30分~60分 作業 10分~15分 休み

という感じで作業するのがベストなようです。

例えば30分だと、単純な事務処理(出張報告書を書くなど)A4一枚を書いて、仕事のメールを2~3通さばくのにちょうどいいくらいの時間です。
採点みたいな作業もこのくらいの時間が適当かも。

45分~60分だと、執筆作業にちょうどいいくらいです。

時間は個人差があると思うので、適当に調節してみるといいでしょう。

重要なことは、「必ず休む」ということです。作業の途中でも休む。
何か書いているときは、むしろ途中の方がいいような気がします。
次に書くことがはっきりしていればすぐに作業に入れますが、ひとまとまりの作業が終わっていると、次に何をするべきかを考えないといけませんから。

研究においては、実験のストーリーを組み立てたり、論文をざっと読んでサーベイするような作業が比較的軽い分野では、60分作業して休むという感じで仕事をするのは悪くない感じです。
セキュリティの論文をざっと読んで要点をまとめるだけなら、1時間あれば1~2本位は読めそうです。
ちゃんと詳細を理解するのは難しい(モノにもよりますけど数日~数週間かかる)ですけれど、そこまで深く読まないといけないケースはごく一部なので。

私が使っているのはTANITAのキッチンタイマー。音が大きくないのがいい感じです。

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ただし、実験や数学の問題を考えたりするときには、タイマーは悪影響があるので、
使わない方がいいでしょう。中断されない時間がどうしても必要です。
私も深く考えるときは、図書館に篭ったりします。携帯電話も持たないほうがベターです。

新年の抱負みたいなものを書こうかと思ったのですが、ごく普通のエントリになりました。
今年も効率的に仕事をこなしたいものですね。


2011-12-12

アメリカの大学院で成功する方法

吉原真理『アメリカの大学院で成功する方法』(中公新書)を読みました。 

 2004年に出版された本ですが、今でも新鮮さを失っていない本です。
 最近はこの種の本がたくさん出版されているようですが、この本は読んでおいて損はないでしょう。もともと勉強(専門+英語)がかなり得意でアメリカの大学院へ留学を希望するなら似たようなルートを経由することになるでしょうから。それに、日本国内ではアカデミックポストを得にくい状況にありますから(今後ますます厳しくなるでしょう)、海外(英語圏)での就職を考慮に入れるとアメリカの大学院への留学は今後主流となる可能性すらあると思います。

 アマゾンレビューでは賛否両論という感じで、否定的なレビューでは「専攻が違う場合はここに書いてある通りではない」ということが攻撃されていますが、まあ、これだけ専門分化してしまっている学問においては、それは当たり前で、一体験談として読むのが正解でしょう。私は理系なので、ここに書いてあることのいくつかは当てはまらないと思いますが(例えば一日1冊のreading assignmentがあるとかいうことは数学専攻、工学専攻などではありえないでしょう)、だからと言って本書がミスリーディングであるというのは言いすぎだろうと思います。タイトルのつけ方には文句があるかもしれませんが、学術書はともかく、一般向けの本のタイトルというのは著者の自由になるものでもないので、物書きとしては、ちょっと著者に同情したくなります。 

 私自身は、本書を読んで大いに反省させられました。論文の書き方、教授との付き合い方などというのは若いうちは「単なる処世術」と思って軽視しがちですが、意外と重要なものです。本書に書いてある具体的な事例は、大いに参考になるでしょう。私はこの歳になって、ようやくその重要性に気づきましたが、「教授との付き合い方」については、時既に遅し。論文の書き方についても、若いうちの怠惰を取り返すのはなかなか大変で、今でも苦労が絶えません。  

 ちなみに論文の書き方やプロポーザル(研究の進め方)をどのように書くかなどに関しては、日本では指導らしい指導はなされていないような気がします。研究室によっては懇切丁寧な指導があるのかもしれませんが、私自身はあまり聞いたことがありません。最初の論文に関しては、ある程度コメントしてくれると思いますが、それ以後は、自分で考えるしかありません。プロポーザルに相当するものは、日本においては、科研費(や各種補助金の予算)申請書類がそれに近いのでしょうが、これも試行錯誤で出すしかないのが現状です(最近は有益な本も何冊か出ているようですが)。私自身は、インドから帰国してからJSTのA-STEPの補助金に申請し、幸い採択されましたが、申請書を書くプロセスでコーディネータの方々に申請書の添削をしていただき、大変有益でした。こうした苦労は若いうちにするべきだったと思いますが、なんとなくこうしたことは「事務仕事」という感じで軽視されがちな気がします。  

本書には、研究者として生き残るためのノウハウが惜しげもなく詰め込まれています。 文系・理系問わず重要なのは「自分が他人からどうみられているか」という視点でしょう。私はこの種の感覚が発達していないので、最近は、できるだけ助言(とおぼしきもの)をよく聞くようにしていますが、これまでの数々の失敗を思うといたたまれなくなります。鈍感なおかげで精神を病むこともなかったのかもしれないので、これは良し悪しでしょうけれど。 

本書のレビューに、こんなに利己的で自己保身ばかり考えているのは嫌だ、という類のものがありましたが、いやいや、これって実は利己的ではないのですよ。相手がどう思うか考えているんですから。自己保身は非難されがちですが、保身を考えない人は、淘汰されてしまう確率も高いのであって、あながち悪いとも言えないと思います。


2011-11-11

ポッキーの日に思ったこと

山形さんが、こんな記事(人の幸福は遺伝に左右され、幸福のあり方は社会制度を決める??!!)を紹介してくれていたので読みました。

「人が幸福を本当に得るためには、幸福を直接考えちゃいけないのでは?」というのは、ホント、大切な視点だと思う。

ズルをして競争に勝っても嬉しくないし、やさしい課題をクリアしても嬉しくない。苦労して手に入れたことというのは、それが傍から見てささやかなことであっても本当に嬉しい。僕は最近、何年もかけた研究がやっと論文としてacceptされて本当に嬉しかった。それ自身の客観的価値は置いておくとして、苦労が報われたということがどれほど人間を勇気づけることかと思わずにはいられない。

幸福には本当は脳内物質みたいな実体なんかないのかもしれない。

状況は絶えず変化し、私たちは、刻一刻と状況に自分を適応させ続けなければならない。

幸福な状態を続けるためには、一生懸命走り続けなければならない。

その大変な状態こそ、幸福の鍵なのかもしれないのだから。

2011-10-05

2011年度ノーベル化学賞(シェヒトマン)

ノーベル化学賞は、私の専門の一つ(quasiperiodic potential)と深く関係する仕事。スタインハートもほぼ同時発見だったはずだ。確か、シェヒトマンが11月12日付のPhysical Review Letters、スタインハートが12月24日付だったと記憶する。物理学賞だと思ったが化学だった。


 quasicrystalsというのは日本語では、準結晶と訳される。準結晶は、結晶(周期ポテンシャル)とアモルファス(ランダムポテンシャル)とは異なる第3の物質相である。準結晶はペンローズタイルパターンと呼ばれる不思議なパターンで原子が配列しているもので、美しく、そしてどこか奇怪である。
数学的には、エルゴード的ポテンシャルの枠組みに乗る。私が最初に書いた論文は、甲元真人氏の考案したモデル(Kohmoto model)に関するもので、これは後に準結晶のモデル(の一部)と考えられるようになったが、準結晶発見以前に発表されていた。
準結晶は特異な性質を示す。厳密な結果はほとんど1次元のモデルであるが、そのスペクトルは特異連続で、スペクトルは、カントール集合(フラクタル的なものだが、単純な自己相似性があるわけでもない)となる。スペクトルのルベーグ測度は0であり、点スペクトルは存在しない(ここはDelyon-Petritis, Kaminaga, Damanikの結果)。電気伝導に関しても特異輸送と呼ばれる不思議な挙動を示す。電気伝導度が極端に低いのに対し、熱伝導率が異常に高いのである。この話は、Bellissardらが研究して数学的にもjustifyされているものがあるようである。


最近はランダムポテンシャルばかり扱っているが、準周期ポテンシャルもたまには研究しようかな、と思ったりして。


本記事は急いで書いたので、間違いが含まれているかもしれません。断りなく加筆修正することがありますのでご了承ください。

5 October 2011

The Royal Swedish Academy of Sciences has decided to award the Nobel Prize in Chemistry for 2011 to

Daniel Shechtman
Technion - Israel Institute of Technology, Haifa, Israel

"for the discovery of quasicrystals"



プレスリリースはこちら


WikipediaよりZn-Mg-HoDiffraction

2011-09-08

概解析接続とHelffer-Sjöstrandの公式


以下の事実は一般にはあまり知られていないと思うので、何かの役に立つ人もいるかもしれないと淡い期待を持ちつつ。

作用素の函数を定義する方法にはいろいろある。例えば、フーリエ変換を用いるものとしては、
とすればいい。
しかし、この方法ではの近似作用素を作るのが難しいし、fへの制限もきつい。

現在、こうした制限を最小限(?)にするために、特によく用いられる方法は、概解析接続(almost analytic continuation(extension))を用いるものである。

に対して次のようなが存在したとする。



(for positive epsilon)
このときself-adjoint operator Aに対し、


が成り立つ。ここで、 である。この公式は、Helffer-Sjöstrand(エルフェール・ショストラン)の公式と呼ばれる。

証明は別に難しくはなくて、拡張されたCauchyの積分定理とスペクトル分解定理を使うだけである。この定理の系(というか同じように証明できるという意味)として、次もわかる。

上記の条件に加えて、で、

ならば、に対し、

が成り立つ。

これらの公式はAのレゾルベントで書かれているところがポイントである。レゾルベントの近似作用素を作るのは比較的容易だから、実用上大変便利である。

問題は、このようなFが存在するかということだが、それは次の補題で保証されている。

補題:とし、は、

を満たすとする。このとき、で、



を満たすものが存在する。であれば、となるように構成できる。
このようなの概解析接続という。

この結果は、
B.Helffer, J. Sjöstrand, Equation de Schrödinger avec champ magnétique et équation de Harper, Lecture Notes in Phys. 345, Schrödinger Operators, pp.118-197(1989)
で用いられたのが最初である。

細かいことをときどき忘れるので、覚書として。


2011-08-22

日本はもう終わったのか

正社員は既得権益か?――湯浅誠氏・城繁幸氏が、雇用、セーフティネットをめぐり徹底討論
という記事を読みました。
湯浅誠氏・城繁幸氏は、どちらも労働問題のエキスパート。二大オピニオンリーダーですから、彼らが労働環境をどう見ているのか、ぜひ知っておきたいと思ったのです。
 私はトータルでどれだけ利益が残るか考えるべきと思っています。問題は高度経済成長後それに代わる成長モデルを描けていない点にあり、それは人が移れないからに尽きますよ。
城氏は一貫して、この問題さえ解決すればよいと主張しています。

その理想主義(というか原理主義)を指摘する湯浅氏。
湯浅 城さんの話は「ウルトラC」があるような感じがするんですよ。ここさえやればうまくいくんだ、という。でも私はウルトラCはないと思う。いくつものステップを踏まないと、いきなり欧州型の職務給になどならないし、横断的労働市場も形成されない。
 私はそれでもウルトラCに賭けてみたい。焦っているのには理由があってそれは財政です。すでに維持不可能なレベルで、私はあと10年もたないと思っています。その意味でも一発逆転を図りたい。ハイパーインフレを起こしたら、結局資産を持たない経済的弱者が路頭に迷うことになる。そうした閉塞感を打破するのは改革しかないと思います。
湯浅 構造改革路線では無理だと思いますよ。この閉塞感の震源地は低所得貧困世帯のためです。進学できない、病院に行けない、就職できない、その不安が社会全体に蔓延しているのが今です。その立て直しなくしては、それこそ国際競争にも勝てないと思います。横断的労働市場の形成のために労働組合が持つ意味というのは本来大きい。派遣村を一緒にやったような労組の社会運動が、連合傘下の大産別にも影響を与える動きが理想と感じます。
城氏の対極たる湯浅氏は、この点で非常に現実的です。私も低所得貧困世帯をなんとかするべきだ、というのは同意見ですが、閉塞感の震源地が低所得貧困世帯にあるのかどうか。国全体が上昇機運にあるとき、低所得貧困世帯がもっと多かったとして、こんな閉塞感に包まれるでしょうか。たとえば、インドでは圧倒的に貧困世帯割合が多いですが、日本のような閉塞感は感じられませんでした。

私は現実問題として、日本の雇用環境はそう簡単にはよくならないだろうと考えます。拙著『未来思考 10年先を読む「統計力」』などにも書きましたが、統計資料をざっと眺めてみるだけでも、今後の状況の悪化はほぼ間違いなく、改善するための実現可能な政策がほとんどないからです。ウルトラCがあるにしても、実現できないなら、ないのと同じ。個人としてはあらゆる知恵を振り絞って考え、自分の身を守る以外に方法はないと思っています。

さて、雑誌プレジデント9月12日号、今回の特集は、「一億稼ぐ人の勉強法」です。
【「時間、集中、記憶、お金」効果満点テクニック】のコーナーに登場しています。
私の人生において最も重要な、ネガティブパワーの効用について話しました。

まだ人生始まっちゃいないと考える方へ、よろしければ、ぜひ。